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浮世離

憂き世を離れて一時息をするための場所です。好きなことしか書きません。自分好みの書棚を作る気持ちでいます。

ノスタルジア

夏の暮れ方に佇むものたちはなぜか心細そうだ

老人も買い物帰りのお母さんも犬も

しっかり現実に掴まっていないとそのまま攫われそうだ

薄い桜色と菫色の空をゆっくりと雲が流れていく

路地裏では子供が隠れんぼしている

見つからない子は置いてくよ

淋しがりの子も置いてくよ

橙色の最後の光線を避けながらアスファルトを踏む

どこからか蚊取り線香の匂いがする 

いつの間にかこんなところまで来てしまった

随分遠くまで来たものだと思う

あの日なくしてしまったあたしはどこに行ってしまったんだろう

現実なんて曖昧で不確かなものの塊だってことくらい分かっている

人ではないもの

それは押し出すようにして吐き出された言葉

感覚をつかみ損ねる

距離をつかみ損ねる

そのようにして私はいつも一人である

永遠に一人の中に閉じこもる

孤独だからただ言葉を捜している

私はここにいるけれど同時にここにいない

もう喪われてしまったものに対して抱く懐かしさ

生きているものは私を脅かすから

 

人々は私の醜悪な言葉から目をそむけるだろう

かける言葉すら持たないかもしれない

それでも構わない

終わったことにはできない

冷えて固まってしまったものではないのだ

今日も塊を吐き出す

傷口がしみる

さらに大きく傷を拡げる

間違ってなんかいなかったんだと確かめる

待宵草

オレンジの花を踏み潰す女学生の足元。

柔らかい咽喉の皮膚が拍動に息づいている。

薄青い風が吹く。

瓦礫の山が秘密基地。

紛い物の指輪を今でも交換したいと思ってくれているかな。

暮れ方の湿気が髪の香りを包む頃、朧月を探しに出る。

緑色の夜に

全然見つからない。見つからないけれど探す。どうしたって会いたいから。ほんの少し、微々たる痕跡を探して歩く。僅かな希望。大半の絶望。あなたは森の匂いがした。深緑に染まった森の匂いがした。しんと静まった夜の気配がした。

 

行方知れずになりたいはずだったのに、どうしてか人探しばかり。

春の宵

春風がセーラー服の裾を乱した。制服の青白さ不吉さが匂いたった。襟元の紺色に映る少女の色の白さを見るたび、私は線香の匂いを嗅ぐ。

どこかから線香の香りが流れて来、濡れたような緑が耳にもうるさく、アスファルトからの照り返しが眩しい夏が死に一番近いことは分かっている。しかし、春の曖昧でぼんやりした空気も彼岸に似つかわしくはないだろうか。朧月夜を眺めて歩き続けたらきっと神隠しにあう。

人には持って生まれた宿命のようなものがあるのだ。つらつらと考えながら歩く。自然に逆らうことは果たして罪だろうか。罪は甘い味がする。危ないことが分かっていてそれでも何も言わずに黙っているということ。それを共犯と人は呼ぶ。道徳という概念を振りかざしても、心に巣食っている滑らかな蛇はもう動き始めているのだ。もっとしっかり縛りつけてくれなくては。と叫びたくなる。磔にして指一本動かせぬほどに私を縛りつけておいてほしい。

 

湯が冷えて水になる。黒髪が濡れて冷えてしまう。眠気が黒い川へと誘う。白い百合のように流れていく。

平家物語 古川日出男版

生き生きとした文体に驚く。祇王祇女仏とじのところなどは、源氏物語の鈴虫を思いだす。これを読んでいたら原文にも当たりたくなる。学生の時にこれを読めていたら違ったなと思う。平家物語はなにかを失うのが怖いとき、どうせいつかすべて失うのだと悲しくなったとき、何度でも読みたくなる。

平熱の京都 鷲田清一

疲れてたかぶってる脳を休めたくて、本屋に入って文庫を買う。鷲田清一の「平熱の京都」一気に気分は京都の界隈をふらふらふわふわ散歩してるように。なめらかな日本語がすらすらっと頭に入ってくる心地よさ。よそ行き他人顔となんだか憎めない顔両方で京都が誘惑してくる本です。時々挿入されてくる、なんとも言えないノスタルジー、心細さ、世界が裏返ることに対する恐れと期待が、鷲田清一の本を読んでる感を強くする。