浮世離

憂き世を離れて一時息をするための場所です。好きなことしか書きません。自分好みの書棚を作る気持ちでいます。

2017-03-13から1日間の記事一覧

青森挽歌 宮沢賢治

春と修羅を新幹線でパラパラとみていた。 青森挽歌に目が釘付けになり危うく涙が流れそうになってしまった。 今は亡き人に対する哀惜の思いを表現した詩は数あれどそれらの中で、最も強く、強く刺さってきたからだ。賢治の詩の中でも「永訣の朝」は大変有名…

むらさきのまち  

旧友の家を訪ねていったら廃屋になっていた。厳重に釘付けがされていて、見る方もない。庭には真っ青な紫陽花が猛々しくはびこっていて、目に痛かった。 庭で生まれて初めてほんものの沙羅の花を見た。掌に載せると、白い花はひんやりして、しっかりした固さ…

はる

花が薄闇にふうわりと白紫に浮かんでいた。 桜色ではなく、薄闇を映してほのかに水色に。 ひらひらではなく、ぽたり、ぽたり、と首から落ちる花房。 掌に拾いあげてじっと見る。 ぼんぼりが一つまた一つと灯っていく。 青い空に白い月。 つつましく艶やかな…

幻燈

全部なかったことなのかもしれないけれど、時々思い出す。 その習慣だけが残っている。 帰宅途中、空を見上げると、桜色と空色が橙に溶け合って沈んでいくのが見えた。 それらは絡まりあって、やがて銀色の水盤となり、漆黒の闇に浮かび上がるのだろう。 や…

いのり

世界はひどく美しく、とても残酷だ。けれども、それに押しつぶされなくてもいい。夜が明ければ透明色の明日が来る。

眩暈

ぷっつりと途切れるときには途切れてしまう。 なんだか死ぬときみたいだと思う。 ここ数年で身を包み込む濃密なゼリーのようなものはうっすらとしたオブラートに代わった。 日の光を浴びるとひりひりと痛む皮膚を抱えて生きている。 変わらない事はないはず…

水底の石

膝に気の早い朝顔が咲いた。 水色のレンズの向こうにのぞく世界を見ている。 大体白く煙っていてよく見えない。 明るい光は網膜に突き刺さるし、脳が痛む。 紅い花がぽたりと一つ落ちて、手首を桃色に染めた。 水に沈んでいく手首を見た。 白い指が優雅にピ…

月光果樹園

白くて厚ぼったくて柔らかい花がぽかりと咲いた。 夜の闇は冷たくなめらかで、昼の光は暖かく拡散していた 白銀灯の下で待ち合わせをしていたら、ぽたりと落ちた。 ぽたりぽたりと溶け出した月がそこいら中に落ちた。 月と花びらが道路中に拡がった。 花粉で…

首飾りの夜

『夜氣の濃い夜には香水が肌に染み易くなるので婦人方はご注意を』とラジオが言ふ。 天花粉を塗りつけた首筋に、それより白き月長石の首飾りを。 紅色の濃き脣に、百合のをしべを當てて、戀が叶ふといふおまじなひ。 夕暮れに目覺めた時、ほんの僅かにあの人…

贅沢な石

贅沢品とは本質的に余分なものだ。あってもなくてもかまわないものだけれど、あると持ち主が幸せになれる。私は無駄なものが好きだ。そこから何も受け取れないものが。 受け取ろうとした瞬間からそれは生産的なものになってしまうから。贅沢品はただそこにあ…

廃墟が愛しい理由

廃墟が好きでいくつも見て来た。廃墟の中でも最も切なく悲しいのは、やはりラブホテルだと思う。ラブホテルが廃墟になる姿を見ると、全て物事は浮世の短い一瞬であるとしみじみ思う。生きるということは全く儚いと思う。人を愛しいと思う気持ちも、永遠とい…

静夜

薄紅に藍が重なって、蜂蜜色に透き通った闇がやってくる。 夜は音がよく聞こえる。遠くから鈴の音。 空気は泡を含んだように淡くなり、月の光だけが鮮明だ。 沈みこむような、宙に浮くような、頼りない懐かしい感覚。 夜の博物館には、今日も月光が差し込む…

ノスタルジア

夏の暮れ方に佇むものたちはなぜか心細そうだ 老人も買い物帰りのお母さんも犬も しっかり現実に掴まっていないとそのまま攫われそうだ 薄い桜色と菫色の空をゆっくりと雲が流れていく 路地裏では子供が隠れんぼしている 見つからない子は置いてくよ 淋しが…

人ではないもの

それは押し出すようにして吐き出された言葉 感覚をつかみ損ねる 距離をつかみ損ねる そのようにして私はいつも一人である 永遠に一人の中に閉じこもる 孤独だからただ言葉を捜している 私はここにいるけれど同時にここにいない もう喪われてしまったものに対…

待宵草

オレンジの花を踏み潰す女学生の足元。 柔らかい咽喉の皮膚が拍動に息づいている。 薄青い風が吹く。 瓦礫の山が秘密基地。 紛い物の指輪を今でも交換したいと思ってくれているかな。 暮れ方の湿気が髪の香りを包む頃、朧月を探しに出る。

緑色の夜に

全然見つからない。見つからないけれど探す。どうしたって会いたいから。ほんの少し、微々たる痕跡を探して歩く。僅かな希望。大半の絶望。あなたは森の匂いがした。深緑に染まった森の匂いがした。しんと静まった夜の気配がした。 行方知れずになりたいはず…

春の宵

春風がセーラー服の裾を乱した。制服の青白さ不吉さが匂いたった。襟元の紺色に映る少女の色の白さを見るたび、私は線香の匂いを嗅ぐ。 どこかから線香の香りが流れて来、濡れたような緑が耳にもうるさく、アスファルトからの照り返しが眩しい夏が死に一番近…

平家物語 古川日出男版

生き生きとした文体に驚く。祇王祇女仏とじのところなどは、源氏物語の鈴虫を思いだす。これを読んでいたら原文にも当たりたくなる。学生の時にこれを読めていたら違ったなと思う。平家物語はなにかを失うのが怖いとき、どうせいつかすべて失うのだと悲しく…

平熱の京都 鷲田清一

疲れてたかぶってる脳を休めたくて、本屋に入って文庫を買う。鷲田清一の「平熱の京都」一気に気分は京都の界隈をふらふらふわふわ散歩してるように。なめらかな日本語がすらすらっと頭に入ってくる心地よさ。よそ行き他人顔となんだか憎めない顔両方で京都…

浮遊霊ブラジル

浮遊霊ブラジル、読了。運命には、意表を突かれた。そうして僕らが生まれたのだとしたら、死ぬときもやはりそんなものなのかもしれない。つまり、うっかりとか、思ってないとか。アイトールベラスコの新しい妻、では、スクールカーストという閉鎖的な空間で…