浮世離

憂き世を離れて一時息をするための場所です。好きなことしか書きません。自分好みの書棚を作る気持ちでいます。

浮遊霊ブラジル

浮遊霊ブラジル、読了。運命には、意表を突かれた。そうして僕らが生まれたのだとしたら、死ぬときもやはりそんなものなのかもしれない。つまり、うっかりとか、思ってないとか。アイトールベラスコの新しい妻、では、スクールカーストという閉鎖的な空間で…

手痛い批評

誰彼の面白い話なんぞいうのはもういい 聞きあきた 誰かを微笑ませたい? そんな欲をもつ者は地に落ちればよい 聞きたいのは如何にしてあなたが生きているのか あなたが心を踊らせるなにかであって 操作的な自己顕示的な偽善のようなものではない 短く言葉に…

虞美人草を読んで 夏目漱石

道義と一個人としての利益。人間の信頼・信用とは一体何かという古く新しい問いに立ち戻らせてくれる小説である。他人に対して、信じられない行いをしたものは、その後も人に対する疑念がぬぐい去れない。自らを鏡のように転写するのが常人であるからである…

公園の裏手に

松林の間を薄紅色の睫毛が匂う しなやかにしなだれて誘う 夜の時間は自らを去るように幻惑的で 昼の時間は潮騒のように揺らめいている ガラスでできた海月が発光して漂う ここはまるでガラスでできた博物館 どの生命も同等に展示されているのだ まつげに当た…

悔やむ日

君が帰ってきたような気がして窓の外を見る あるのはただ風に吹かれて転がった如雨露だけ 細い枝を鞭のように唸らせて風はただ吹きすぎる その風は萩を揺らし麦を揺らし真白な月を掠め今しがた君のところから吹いてきたばかりのように思える 大空は寒として…

私信(と言っても読んでもらえることはない)

あなたが遺したテキストを今ごろになって読んでます。あの頃は、あなたを好きだと言いながら、あなたの文章を真剣に読んではいなかった。そう今は痛感します。あなたが好きな詩を私も好きだということが、ただ嬉しかった。あなたが選ぶ言葉一つ一つが、輝い…

サカナクション讃歌

ある日、FMから聞いたことあるはずのに、聞いたことない曲が流れてきて、驚いた。その前の週もどこかで聞いたような、それどころか20年くらい前も聞いたことがあるような。正確には、これはシンディーローパー的80年代、と思った。だけど、よくある曲だった…

車窓から

暖炉で静かに燃える石炭のような空と 垂れ込める鬱屈とした鈍色の雲の間を君が行く 西に向かう少年 こうして僕らはすれ違ってしまうのかな パッと燃え上がる新しい薪 新鮮な空気 橙色を映した頬を持つ少年 ゆったりとほら空を飛んでいくよ 君をとどめておく…

今日も知らない街で

遠くにいる知らない人が水を揺らす気配に心を奪われている。 川縁の静かな呼吸。 透明な水は流れ流れ。 白い息とたぶん暗い星空。 欄干に凭れて君は見るだろう自由の空。 僕は遠くからそれを感じる。 どこにいくも何をするも自由の君は憧れ。 僕の代わりに走…

心葉 ―平安の美を語る― に関して

白畑よしさんと志村ふくみさんの対談をまとめた心葉という本を読んだ。表題の心葉という言葉を、寡聞にして知らなかったが、この本を通じて、平安貴族の繊細な美の感覚の一端に触れられたように思う。心葉とは、贈答の際に品物につけた草花や造花のこと。平…

岡倉天心 茶の本 第五章 芸術鑑賞 より

岡倉天心の著した茶の本から、美に関して考えさせられる記載があったので、記録しておきたい。岡倉は、「美術の鑑賞力は、修養によって増大することができるものである」としているが、「われわれは万有のなかに自分の姿を見るに過ぎないのである」とも述べ…

叫びたいこと 萩原朔太郎と中原中也

萩原朔太郎の、小説家の俳句、という小論を読んでいて、詩人の本来ということを考えた。この小論は、主に芥川龍之介の残した俳句について述べたものだ。文人の余技であるとか、なかなか手厳しいことを述べていると思う。芥川の作品は全体に作り込まれたもの…

伏見

蛍光灯のチラチラする影と 虫のはぜるパチパチというおと あれは夏だったんだろう延々続く幽玄な鳥居 どこにもたどり着けないまま 森から出てこられなくなるような 神様への手向けものの馬と 白い敷石のジャリジャリという音 自分が見ているのか見られている…

前橋 瀬戸物店 小松屋 来訪

新聞で、千代田町の小松屋という、瀬戸物店が、店じまいすると知った。 高校時代毎日前を通りすぎながらも、一度も足を踏み入れたことのない、瀬戸物店。 新聞で知ったのも何かの縁と思い、訪ねた。まず、高校時代から全く変わらないディスプレイに驚かされ…

閉ざされた壁の向こう側で

言葉が意味をもつ どこまで世界を理解できるのか 問いかけてくる ありとあらゆる言語で 善を美を真を虚を 叫びかけてくる お前の理解はそこまでかと 問いかけてくる 真に正しい在り方はどのようなものかと 僕は答える 知りうる限りありとあらゆる言語でしか…

薔薇とナイチンゲールとひよどり

力をなくした時、サアディのこの詩を思い浮かべることがある。 「花瓶の薔薇がそなたに何の役に立とうわが薔薇園から一葉を摘みとれ薔薇の生命はわずかに五日か六日わが薔薇園は永遠(とわ)に楽しい ―サアディ「薔薇とナイチンゲールとひよどり」 始めてこ…

シーシュポスの神話

学生時代、教授に読むべきと薦められたものの、他のことにかまけて、放置してしまった一冊。手に取ってみると、シーシュポスの神話自体は、8ページほどの短編だった。 読後の感想。 不条理な世界に対して、自らの意志でもって、「それでよしと」と言い続ける…

俵屋の石鹸

取寄せは普段あまりしない。 ただ、俵屋の石鹸だけは必ず取寄せることになる。 俵屋は京都の老舗旅館。 何で知ったのだったか覚えていないけれど、「俵屋の不思議」という書籍を読み、 女主人の古典理解、審美眼、並々でないこだわりに惹かれるようになった…

ブラームス ピアノ小品 116~119

最近ピアノ曲ばかり聞いている。 グレン・グールドのゴルドベルク変奏曲や、ブラームスのピアノ小品など。 特にブラームスの後期ピアノ小品116が好きでずっと聞いている。 叩きつけるように激情的だったり、深い憂いに沈みこんだり、かと思うと少しユーモラ…

紺の真昼

気がつかないうちに過ぎていてほしいとさえ思うのは贅沢なことなのだろうか 君は濡れた絹の冷たさで私を見ている 気がつかないうちに終わってほしいとさえ思うのは望みすぎなのだろうか 君は磨いだ月のような鮮烈さで私を見ている 今はただ音楽のなかでまど…

芝不器男

あなたなる夜雨の葛のあなたかな 白藤や揺りやみしかばうすみどり夜、入浴中などに、しとしと雨が降ってくると、芝不器男の句がふっと思い出される。向こうの向こうに思い出されるのは故郷なのかあの人の横顔なのかなと思ったりする。白藤の句は、一昨年、藤…

不可避

僕らはたぶん可能性に恋をしてる。 絶望に最も有効であり、明日に命を繋ぐために欠くべからざるもの、それは可能性。

窃視症の見る夢は

その神経質に震える睫毛 あなたの首もとを白々とした剃刀のような衿元を眺めながら その薄い皮膚の下を流れる温かい血のことを想う 骨ばった指の甲が露草の青に染まるところを想像する 腺病質で麗らかな夜にも病みがちな 透けるような花びらの肺を想う 女の…

午前0時に霧を見た話

霧渡る街 もの皆すべて柔らかく優しく滲む もの皆すべて過去の蒼を帯び揺らぐどこにいたのだかわからなくなる 探しても探しても君は見つからない ここで微笑んでいたとして次の瞬間はあちらだ 川の上を柔らかく漂う霧みたいだ何も言わないでほしい 何も言わ…

だから僕は本を読む

電話ボックスが煌々と光ってる。 藍色の闇から浮き上がって見える。 受話器の緑。蛍光灯の白。 ここから誰にでも電話をかけられるとしたら誰にかけたいか。 今の自分にはあの人しか、ただあの人しか、思い当たらない。 電話の向こうで黙っていたっていい。 …

江戸川乱歩 押し絵と旅する男 のぞきからくり見物記録

先日、のぞきからくりを見物する機会に恵まれた。 江戸川乱歩の「押し絵と旅する男」が好きで、何回も読んでいたので、のぞきからくりが来ると知って、しかも数日で終了してしまうと知り、是非にも行かなければと気持ちが逸った。今回の演目は、八百屋お七。…

清らかなるかな花は月は

僕の記憶 あなたの襟元に冷たい泥の塊を押し込んだ 蓮池に風はぼうぼうと吹いて 蓮の実笑うようにカラカラと震えた あなたはにっこりと笑った これ以上の満足はないというかのように 月は煌々と辺りを照らし ざあっと薄が一群揺れた 二人して飲んだ毒は紫 二…

蓮池に月

私が見たいのは あなたの純白の襟元が完璧に調和されて汚されていくところ 私が今すぐ見たいのは あなたの冷たい襟足が完璧に調和されて汚されていくところ あなたの瞳を覗きこんでどんな顔をするのか見てみたい 宵闇暗く月は昇り秋草が枯れ果てた野原で あ…

リハビリテーション

言葉が出てこなくて焦ることはないですか。 私はある。表現したいのに、言葉に詰まる。どのようにしたら、この感じを伝えられるのかと、迷い悩む。 10代のころ、言葉が溢れて困った。結果、たくさん書き、たくさん話し、していたように思う。20代、言葉は落…

萩原朔太郎詩集

萩原朔太郎詩集の序に、詩人に進歩はなくただ変化があるのみ、という箇所がある。だから詩作はただの記録であり、魂の慰めに過ぎないと。大渡橋や、新前橋駅という詩の中には、朔太郎の強い憤りが存在している。もちろん自然や自らのノスタルジーである郷土…