浮世離

水面に浮上してほんのつかの間の息継ぎ。心象風景がほとんど。

三四郎 読了

読売歌壇を読んでいたら、三四郎を扱った作品が掲載されてたので、いい機会だと思い読んでみた。本が手元になかったので、青空文庫で気楽に読んでみた。

三四郎は熊本から上京きたばかりの大学生。明治が舞台だけど、人の心は今と変わらずなんだなと思い、すぐに引き込まれて読み進められた。

女性というものを掴みたいし、とらえてみたいという気持ちと、女性をわかりきりたくない気持ち、この微妙な間で三四郎が揺れ動いているのが、面白かった。女性の不明瞭なそれゆえ神秘的に感じられる部分をうまく描いている。神秘性を感じていたいという欲望の投影のような気もするけれど。男女の視点や視線の微妙なずれ。このずれがあるからこそ、奥行きがあるようにも思うし、期待や失望をいっぱいにはらむことができる。夢を見ることもできる。致命的に乱暴な女性に翻弄されたいのではないかと感じた。圧倒的な存在として、理解を越えるものとして。それはまるで、自然への崇拝に似ている。時々現れる死のイメージが、すべてを飲み込む女性の悪のイメージと重なり、タナトスを強く感じさせた。

美禰子のような女性がいたら、すべてを失ってもいいからあなたと、と口走って跪づいてしまいそう。そこで、話しはするのに何もできないでいる、それが三四郎であり、男であり、現実ってものなのかもな。

近代化した都会で三四郎が感じる不安の描写や西洋文化については、さすが。やはり漱石が留学した際に強く感じたことがベースになっているように思えた。

総じて魅力的なキャラクターが多くあり、読み物としての完成度が非常に高かった。三部作ということなので、他も読んでみたい。

今回青空文庫で読んでみて、無料で読めることに心から感謝しつつも、やはり日本語は縦に読むに限ると、改めて実感した。