浮世離

水面に浮上してほんのつかの間の息継ぎ。心象風景がほとんど。

悼む

もうそこにいない、あなたに話しかけるように書く。
対象を失った言葉は熱も失い、ようやくと形を保っているだけだから。

白昼夢のように、あなたをみた。
駅のホームで、いつもの本屋さんで、散り際の桜の木の下で、池のそばで、紫陽花の近くで、ビル風に吹かれて、波打ち際で、夜の公園で。

千切れるほど手を振って、声を限りに叫んでも、もうあなたには届かない。
私はあなたに何を伝えたらいいのかすらわからない。ただ、ずっと前から私はここにいて、あなたはそこにいて。でも本当にわずかな、短い間、あなたと私の間には、永遠みたいな、時間の止まったような瞬間が存在したことを、覚えててほしいと思ってるんだ。

だから、もうそこにいないあなたに向かって書く。
あなたは昔からそこにいて、私はここにいて。でも、だだすれ違ったんじゃなくて、あの瞬間は確かに一緒にいたんだよってこと。そのときは確かにそこにあったんだよってこと。