浮世離

水面に浮上してほんのつかの間の息継ぎ。心象風景がほとんど。

江戸川乱歩 押し絵と旅する男 のぞきからくり見物記録

先日、のぞきからくりを見物する機会に恵まれた。
江戸川乱歩の「押し絵と旅する男」が好きで、何回も読んでいたので、のぞきからくりが来ると知って、しかも数日で終了してしまうと知り、是非にも行かなければと気持ちが逸った。

今回の演目は、八百屋お七。弁士は女の人で、今回は見たのぞきからくりの台は、新潟のものらしかった。当時大変高価で、家一軒建つほどであったが、それを上回るだけの人気売り上げがあったという。外装は、直したばかりということで、とても美しかった。もっと早くいけば、組み立てるところを見られたというので、少し後悔。レンズを通してのぞきこむと、中には美しく着飾った花魁と桜が満開の夕刻の吉原が写し出されていた。着物はやや古めかしく、聞くところによると120年前に製作されたものだということだったが、それが不思議なノスタルジーを感じさせる。レンズを通して見ると立体感が生まれ、また脇の方から見たり、下の方からみると、絵全体が微妙に違って見える。花魁はどれもこれも同じ美しい白い顔で、楼閣の赤が艶かしい。
弁士の方の語りは独特の節回しで、リズムよく流れるように、八百屋お七の悲劇を語る。
私は寡聞にして知らなかったのだが、こののぞきからくりの人形は、その昔動くこともあったらしい。今のものは動かないということだったけれど、昔の人はどんなに魅力に感じただろうか。そして、灯りが変わるということも、全く知らなかったことで、新鮮な驚きだった。
時間にして20分程であったけれども、他の人たちと押し合うようにして、レンズの向こうに映る物語を見るのは刺激的だった。
もし誰かこの中の人物一人に真剣に恋してしまったら、と思うと胸が苦しくなる気がする。その時は、一緒に絵の中に閉じ込められてしまった方が、やはり幸せなのかもしれない。