伏見
蛍光灯のチラチラする影と
虫のはぜるパチパチというおと
あれは夏だったんだろう
延々続く幽玄な鳥居
どこにもたどり着けないまま
森から出てこられなくなるような
神様への手向けものの馬と
白い敷石のジャリジャリという音
自分が見ているのか見られているのか
すくわからなくなるような闇のなか
僕は手も足も出せずただじっとしていたんだ
その闇の深さのなかで君がすぐそばにいるって知っていたのになにもできずに黙ってたんだ
君を含めた森の気配をただ感じてただそれだけで
僕には君の幻影が必要で
単純な物語を欲していたんだと今なら思うよ
山の麓の緑の美しい町
夕暮れ方に点灯する街灯の儚げな光線
君が曖昧に微笑んだのが見えた気がした
一人電車で離れた
あの頃の僕はもういない
あの頃の君ももういない
でもそこに確かにあったということを忘れないでいる