川をわたる
ああ。
あなたの悲しき幻燈(vision)だけが
真に私を許し慰めてくれるのだ。
川を渡る。
川を渡る。
プラチナの瓦礫でできた
ざらつく表情を見せる
そこだけ凍った川を。
嘆いても嘆いても
流れ去り凍りついた水の表から
思唯の一片をもうかがい知ることはできない。
それらはすべて遠い過去に過ぎ去ったことである。あじさひも曼珠沙華も菊の幽霊も一切が水の底に沈んで帰ってこなかった。あるのは遠いゆらめき。かつて在りし日の声。
全ては遠い過去に、ぶりきのそしてらじうむのせるろいどのぴかぴか光る、手をふって別れた人の幾分か変質の見られる 声である。
声は白っ茶けてしまい、面影を伝えてはくれない。しかし僕はそれを抱き締めて思い出のよすがにするしか他に方法がない。
僕らは永遠に(そして永久に)一人である。
ただあなたの悲しき幻燈の面影をよすがに、今日も川をわたる。
一切を振り捨てんとして。
脱ぎ捨てた衣を川に流すべくして。
川の表は今日も静寂であり、神秘の蒼をそこ深く湛えているのみである。
今日も一人で
川をわたる。
川をわたる。