浮世離

憂き世を離れて一時息をするための場所です。好きなことしか書きません。自分好みの書棚を作る気持ちでいます。

もののおわりとはじまり

うすむらさきにけぶる神経に焼き鏝で焼き印をする
神経を押し潰すのだ
これ以上何も感じないようにと
そのようにしてまで守られることを願う
一切の責め苦から

妙な角度に歪んだ猫の死骸を
丁寧に葬ってやることはできなかったのか
醜さに目を背けるだけでなくして
あれ以上壊れる前に綺麗に整えて
わたしは今でも後悔している

懺悔

言葉と意味の接着を試みる私には
難しいことがわからない
言葉と意味がバラバラになる
その恐れから
ただひたすらに神の名を呼んだのだ

沼地に水没せし水槽

電車の中には何かの魚類の末裔が数多く息を潜めている
六月の風がさっと吹いてそのぬめりを乾かしていく
天から降り注ぐ光が藻を通して梯子のようである
わずかに尾びれを閃かし泳ぎまわり
わずかに泡を吐き出してぴくつく
電車のなかは静かなる魚類の末裔の集まりだ

一番青い水窟

深く潜る
積年の碧の堆積の中に
深く泣く
光の柱数知れず立つ中に
珠と浮かぶ沫を
深い水底から眺めて

石灰岩に刻まれた言葉
それはあなたの遺した傷の痕
儚く脆い岩肌に
確かに残る傷の痕

深く潜る
音の亡い世界へ
深海魚も棲まない冥府の暗がりへ

抵抗

ずるずると引きずり込まれる
漆黒の暗渠の彼方へ
錫でできた脆い楔を打ち込む
ずるずると押し流される
風の吹き荒れる墨色の谷へ
腐りかかった杭にしがみつく
精一杯の抵抗は全く虚しく美しからず
しかし流れに逆らわずまた風に吹き飛ばされていくことができない
そのような人間の醜さ貧しさ
しかし妙にぴかぴか光っている
遠くからでもその光は写る

豪奢な夕暮れ

いくらはね除けてもエメロード色の樹液が心を縛り付ける
憂鬱の香りは如何に
川面の乱反射がプラチナの手触りで私を傷つける

意味の分解した世界で
風はそよぎわたる
いくらかの無生物を引き連れて安全圏を目指す

手を伸ばしても届かない郷愁のみが救い出してくれるのだ
うす紅色の陰りの中からあの人が手招きしてくれる

強固な神経衰弱

あれも違うこれも違う
取り乱して机を掻き回して
そのときまでの本当がくるりとまわり
表情を変えるのが一番怖くて悲しいこと

知らなくていいことを知り
知らなくてはいけないことにいつまでもたどり着けない

本当なんてありやせず
みんな幻なんだよ
確からしいとそうあってくれとそう願ってるに過ぎない
手触りも臭いも影も形も本当らしく迫ってくるのに

正確な位置に定まり咲ける牡丹の花
観念の花
思唯の花
それだけを信じていたい