浮世離

水面に浮上してほんのつかの間の息継ぎ。心象風景がほとんど。

春爛

はらり落ちひらりひるがえり触れられぬまま返事もないままほぐれほころびほろびる ま白なタイル ひかりの粒粒 息苦しいほど濃密な白白白 広がる身体が干からびてしまう前に 揺蕩う皮膚のまっさらな鮮度 手を伸ばす 放埒な想像力 流し目 青く 朧気な どうせ泡沫と消える この世界のよそで 今灯火消え 甘く 薫り 儚く 生絹越しにのぞく月 淡い笑みを含んだまなじりは 訪れて去っていく 春の声のように 仄暗い部屋 紅が光る 僅かに指をそらせて 人目につかぬほどの静けさで 交わすのはやはり青い眼 次に声を聴かれるまでは 死んでいるのと同じなれば 気づかれるまで死んだ真似していようか

こころ

心は色の吸い取り紙のように
私の中をたゆたう
 
ちぎれ ほどけ ばらばらになっても
色一つ一つを正しく写し取る
 
刻々と移り変わる
蒼や紅や真珠になぞらえ
とうめいな色
とうめいな影でさえ
 
紺碧の海に揺れる
とうめいなリボンが風を孕み
大きな弧を描くように
 
心はたゆたう私の中を

塵芥

グレイッシュな言の葉ひらひらがはやくも古びて

一塵の風に舞い上げられて跡形もなく飛び去る 

美しい廃  

僕の周りには死んだ言の葉がひらひらと舞ってるだけ

ふわりと落ちて また芽を吹くのを待ってる

さくらさくら 

美しい廃

さらさら落ちてどこまでも落ちて

暗い暗い冥府の底まで

吸い込まれていく暗闇に 

荒野

メランコリックな月が喚く
巡り巡る季節のうるささに
鉱石の様に硬質で透明な響きとなり
永遠に停止したい
 
邪魔だ目を開け今すぐに
自己治癒のための物語
 
がさがさに乾いて捲れ上がった
血がこびりついて乾涸びた
そんな場所にしか似合わない音

冥府

ひろがるひかりがひかりを呼び
やわらかくひるがえる環を作り
絹のような薄いリボンとなって海に沈みゆく
 
かつてここにあった日々は風にさらされ太陽に傷み騒がしい河原のあおい苔のなかに沈黙した
 
紫から藍へとうつる
なつかしいあなたの香りが漂ってくる
 
それは桜の枯れた夜
乱反射する絶対の白
月の向こうで笑う蜃気楼
 
冷たい手
熱に浮かされた瞳
はじらいがちな横顔
 
ゆったりした点滅は冥府からの合図であり
反響する数多の鈴の音鐘の音は
おわりの薄暮を知らせる声である
 
すずしくかるくとうめいな薄荷水は
たったひとつの恩寵のように静まっている