浮世離

水面に浮上してほんのつかの間の息継ぎ。心象風景がほとんど。

深夜

夜の間に山の裂け目から
次々産み出される
盲の僧侶 蛋白石の喚き声 天馬のもがき
蒼い焔 明滅する鮮烈な赤 黒が産まれる前の白い発光体
 
転がり落ちる巨大な黒闇が音を立てて引き伸ばされる
その声を聞いたものはあるか
 
松脂のように後を引いて
透明にしなだれる
 
針葉樹の冷たさで底光りする
かの女の爪

秋の暮方

秋の憂鬱な暮方 
青に廃を混ぜた 憂鬱な目つき 
アーク灯のつく国道
 
砂時計が滑り落ちきってもあなたを
恋の憂鬱が銀の羽を紛れ込ませる夕方
どうかその冷たい手で掴んでください 恋人よ 
身体の芯まで冷え切って心まで連れて行かれてもよい 
端正な言葉の端々が心を強く慰撫する

薄刃陽炎

秋の憂鬱な暮れ方 
青に廃を混ぜた 憂鬱な目つき 
アーク灯のつく国道
 
砂時計が滑り落ちきってもあなたを
恋の憂鬱が銀の羽を紛れ込ませる夕方
どうかその冷たい手で掴んでください恋人よ 
身体の芯まで冷え切って心まで連れて行かれてもよい 
端正な言葉の端々が心を強く慰撫する

石女

過去に生きるすべての物を供養するという言い訳のもと、現在から逃走する。それは虚しく石を積む作業だ。自分が入るための暗い暗い穴。恥と高揚の境目で盲目のキメラが苦しげに身をよじる。僕はもう全て失い尽くした。あとに残るは蓮の葉の残骸。それはカラカラと白めいた音を立てて蒼天に笑っている。

もののおわりとはじまり

うすむらさきにけぶる神経に焼き鏝で焼き印をする
神経を押し潰すのだ
これ以上何も感じないようにと
そのようにしてまで守られることを願う
一切の責め苦から

妙な角度に歪んだ猫の死骸を
丁寧に葬ってやることはできなかったのか
醜さに目を背けるだけでなくして
あれ以上壊れる前に綺麗に整えて
わたしは今でも後悔している

沼地に水没せし水槽

電車の中には何かの魚類の末裔が数多く息を潜めている
六月の風がさっと吹いてそのぬめりを乾かしていく
天から降り注ぐ光が藻を通して梯子のようである
わずかに尾びれを閃かし泳ぎまわり
わずかに泡を吐き出してぴくつく
電車のなかは静かなる魚類の末裔の集まりだ