浮世離

水面に浮上してほんのつかの間の息継ぎ。心象風景がほとんど。

低吟して

作家や文人の裏話的なものがすごく好き。最近はネットで瞬時にいろんな人の情報に触れることができるから、本当に感謝の気持ちしかない。

中原中也について、調べていたら、壇一雄氏の「小説太宰治」の中に、雪の中、太宰に会いに行くという中也について書かれた部分があることを知った。同書によれば、その夜の中也は、宮沢賢治春と修羅の一節、「夜の湿気とかぜがさびしくいりまじり まつややなぎの林はくらく 空には暗い業の花びらがいっぱいで」を、嘯くようにして、去っていったとあるらしい。また別の場面でも、汚れちまった悲しみにの一節を、低吟して去っていったらしい。

詩歌を吟じて去っていくなんて、今そんなことが、できる人がいるような気がしない。中也のエピソードとあいまって、なんだかすごくかっこいいのだ。

今日、澁澤龍彦三島由紀夫に関する、インタビューを読むことがあった。そのなかで、三島が澁澤を訪ねてくるという場面があるのだが、三島は一人で豪快に笑ってベラベラ話した挙げ句、小唄を吟じて、嵐のように去っていったらしい。これもまた、三島の人となりを感じるエピソードで、小唄はなんの曲だったのかな、と興味がつきない。

詩歌を吟じたり、即興で句を作ったりするのが、教養だった時代もあったのに、今はそんな人どれだけいるのだろうか。時代は遠く過ぎ去ったような気がする。