2017-03-13 首飾りの夜 心象風景 『夜氣の濃い夜には香水が肌に染み易くなるので婦人方はご注意を』とラジオが言ふ。 天花粉を塗りつけた首筋に、それより白き月長石の首飾りを。 紅色の濃き脣に、百合のをしべを當てて、戀が叶ふといふおまじなひ。 夕暮れに目覺めた時、ほんの僅かにあの人の薰りがした。 あれは夢だつたのだらうか。 ベランダの椅子に腰掛ければ、星が手に取れさうな程近くに。 「貴方、ゐないのですか?」 チャイムが鳴つて愛しい貴方のさう呼ぶ聲がするまで、ここに座つてゐることにしませう。