浮世離

水面に浮上してほんのつかの間の息継ぎ。心象風景がほとんど。

首飾りの夜

『夜氣の濃い夜には香水が肌に染み易くなるので婦人方はご注意を』とラジオが言ふ。

天花粉を塗りつけた首筋に、それより白き月長石の首飾りを。

紅色の濃き脣に、百合のをしべを當てて、戀が叶ふといふおまじなひ。

夕暮れに目覺めた時、ほんの僅かにあの人の薰りがした。

あれは夢だつたのだらうか。

ベランダの椅子に腰掛ければ、星が手に取れさうな程近くに。

「貴方、ゐないのですか?」

チャイムが鳴つて愛しい貴方のさう呼ぶ聲がするまで、ここに座つてゐることにしませう。