僕らはたぶん可能性に恋をしてる。 絶望に最も有効であり、明日に命を繋ぐために欠くべからざるもの、それは可能性。
その神経質に震える睫毛 あなたの首もとを白々とした剃刀のような衿元を眺めながら その薄い皮膚の下を流れる温かい血のことを想う 骨ばった指の甲が露草の青に染まるところを想像する 腺病質で麗らかな夜にも病みがちな 透けるような花びらの肺を想う 女の…
霧渡る街 もの皆すべて柔らかく優しく滲む もの皆すべて過去の蒼を帯び揺らぐどこにいたのだかわからなくなる 探しても探しても君は見つからない ここで微笑んでいたとして次の瞬間はあちらだ 川の上を柔らかく漂う霧みたいだ何も言わないでほしい 何も言わ…
電話ボックスが煌々と光ってる。 藍色の闇から浮き上がって見える。 受話器の緑。蛍光灯の白。 ここから誰にでも電話をかけられるとしたら誰にかけたいか。 今の自分にはあの人しか、ただあの人しか、思い当たらない。 電話の向こうで黙っていたっていい。 …
先日、のぞきからくりを見物する機会に恵まれた。 江戸川乱歩の「押し絵と旅する男」が好きで、何回も読んでいたので、のぞきからくりが来ると知って、しかも数日で終了してしまうと知り、是非にも行かなければと気持ちが逸った。今回の演目は、八百屋お七。…
僕の記憶 あなたの襟元に冷たい泥の塊を押し込んだ 蓮池に風はぼうぼうと吹いて 蓮の実笑うようにカラカラと震えた あなたはにっこりと笑った これ以上の満足はないというかのように 月は煌々と辺りを照らし ざあっと薄が一群揺れた 二人して飲んだ毒は紫 二…
私が見たいのは あなたの純白の襟元が完璧に調和されて汚されていくところ 私が今すぐ見たいのは あなたの冷たい襟足が完璧に調和されて汚されていくところ あなたの瞳を覗きこんでどんな顔をするのか見てみたい 宵闇暗く月は昇り秋草が枯れ果てた野原で あ…
言葉が出てこなくて焦ることはないですか。 私はある。表現したいのに、言葉に詰まる。どのようにしたら、この感じを伝えられるのかと、迷い悩む。 10代のころ、言葉が溢れて困った。結果、たくさん書き、たくさん話し、していたように思う。20代、言葉は落…
萩原朔太郎詩集の序に、詩人に進歩はなくただ変化があるのみ、という箇所がある。だから詩作はただの記録であり、魂の慰めに過ぎないと。大渡橋や、新前橋駅という詩の中には、朔太郎の強い憤りが存在している。もちろん自然や自らのノスタルジーである郷土…
山姫にちへの錦をたむけても散るもみぢ葉をいかでとどめむこの藤原顕輔のうたがぴったりくるほど、気前よくさらさらと散り落ちる紅葉。 燃え立つような赤と輝くような黄と。 どうあがいても散ってしまうものは留めようがなく。儚く抗いようがないことは、や…
学生時代に夏目漱石のこころを読んだ。先日、紀伊國屋でこころの新装判を見かけて、読みたくなった。この装丁は、新潮プレミアム判というので、よくある退屈な(失礼)水彩イラストではなく、真っ白なカバーにメタリックグリーンの押箔で題字が印刷されてる。…
007でボンドガールがつけてたザクロの香りで印象的なサンタマリアノヴエッラ。 イタリアにある本店は薬店であり、歴史ある建物と聞く。 サンタマリアノヴエッラの香水は全て天然素材でできているということ。 ここだけ小宇宙とでもいいたげな、ゴージャスな…
何年か前にシャッターアイランドを見た。全然期待してなかったのだが、とても面白かった上、音楽が素晴らしかった。特に、マーラーのピアノ四重曲奏断章、このテーマが随所で使われているのだが、今まで自分が聴いたこともないような、憂いを帯びた美しく官…
一楽章のなんとも言えない引力ってなんなんだろう。 音楽についてはあまり詳しくないけど、この曲を聞くたびに、ゆっくり惑星に引き付けられて落ちていく隕石を思い浮かべてしまう。 美しさということで言えば一番だと思ってる。
仏性は白桔梗にこそあらめ。 これは、夏目漱石の俳句。 確かに、桔梗、特に白いものは、凛として他のものに犯されがたい魅力があるように思う。仏そのものの化身としては、一番桔梗が相応しいように思える。 他に、これも漱石の句で、秋の川真白な石を拾いけ…
あの頃あんなにもたくさんの言葉を投げ掛けてくれていたのは、私に特別な関心をよせていてくれたからですか。それともあなたの自己確認だったのですか。会うとほとんど話さないけど、色彩に溢れたあなたの言葉が好きで、発想や、知ってるもの、全部好きだっ…
雑談しててその人もこっちも思ってないようなことを偶然堀当ててしまい、沈黙。 話すって、怖い。 そんで黙ってしまうってのが、また怖い。 本当になってしまうから。 自分の当たり前と、その人の当たり前の間には深くて長い河があり、前提条件が違うにも関…
わかられることを拒否したようなものが好き。そんな人が好き。 だけど、そんな人は人に興味なんかないので、私の思いは一方通行のままだ。 わかられたいと思いが溢れているのを見ると、嫌でたまらないと思う自分は残忍なのか。 美しいすれ違いが永遠に続いて…
いいことも悪かったことも 君がそばにいたこと 笑ったこと泣いたこと 思い出すってことはさ もうそこにないってことだし もう何か決定的に他のものが付け加わってるってことだろ あのときを瞬間冷凍で あの色を鮮明なカラープリントで できない僕らはすぐに…
思いつく限りの寄り道をして、あなたに会いに来たよ。あなたを見るのは胸が高鳴ること、そして、怖いこと。あなたの目に私が写って、切り取られてしまうことが何より怖い。だからずっと避けてる。できれば、見ていることに気づかれないまま、あなたをずっと…
たぶん逃げ。逃避。桃源郷を求めての空中永久飛行みたいなもの。美しいものを探し求めて、思わずあとをつけてしまうような。あとをつけてるって、気がつかれないまま、ただ美しいものを盗み見て、満足するってどうなんだろう。いやそれこそ美しいものに対す…
相対性理論が昔好きだった。音楽の方の。 シフォン主義とか、ハイファイ新書とか、摩りきれるくらい(摩りきれないが)聞いた気がする。でもある時期から聞かなくなった。この間久々にタウンエイジってアルバム聞いたんだけど、どうもしっくりこない。何がって…
世界中の全ての要素がわたしの目や皮膚や神経から入ってきて わたしをやさしく強く揺さぶったり傷つけたりする あなたが揺れるとその波紋が伝わって優しく強くわたしを揺さぶるのです
何もできないうちに過ぎ去っていく あなたの無意識的な微笑みに 世界で一番安心してしまうわたし 名前も知らないのに今この瞬間だけなのに あなたの微笑みはわたしを優しくさせる あなたの真珠色の手指を引っ張って ここから出ようって言えたら そしてあなた…
白い桃みたいな産毛が光って白い歯と日焼けの薄赤い頬 あなたのようすはまるで青竹が含んだ露のようです 明るく照らす北極星がずっとあなたの先をまっすぐに照らしてくれますようにと祈ります
明日のはなしばっかりするって言われて、はっとする。今ここにいる自分なんてないみたいに、明日のはなし、昨日のはなし、ずっと昔のはなし、そんなのばっかり、と言われてるみたいで。 今が全てであとはなんもないんだよって、言われた気がして。蛍がすいっ…
涙がこぼれて落ちて揺れている 腕を伸ばしてさわれば またあのときみたいに揺れてくれるの 瑠璃色の簪みたいに どうしようもなく息苦しくて それがあなたのせいだって わかればわかるほどいとおしくて また揺れてくれるの 触れば届く距離のあなた
スカートの裾ひらり 白い頬のあの子からは死の匂い 笑っているけど笑っていたいけど 重苦しく漂うのは死の匂い 黒髪をかきあげて汗ばんだ季節 赤い金魚が泳ぐように スカートの裾ひらり 頭から離れない 笑顔と泣き顔と 鞄を翻してきびすを返して あのときで…
地下鉄のいならぶ電車が闇に消えるとき誰でも死んでいくと思う よく見る 今しかないと思ってじっと見る でも過去になって思い出せなくなってその瞬間は消えてしまう 地下鉄の暗闇のなかに古代蓮が浮かんで見える ふわりふわり手をふっているようだ みんなみ…
美しすぎれば美しすぎるほど、透明であればあるほど、花の盛りであればあるほど、それを目に留めるのは、一瞬にしておきたい。目の端に現れてすぐに消えて行く幻のようであってほしい。もっと目に焼き付けておきたかったと、しっかり見て、なくさないでいら…